君に染まる(前編)
「あれ、植野先輩じゃない?」
振り返り楓ちゃんの指差す方向に目を向ける。
そこには講堂の裏の方へ歩いていく植野先輩の姿があった。
後姿だけでも胸がきゅんとする。
植野先輩に見とれていると、トンッと背中を押された。
「いってらっしゃい」
「え?」
「追いかけなよ、ここで待ってるから」
そう言って、壁によりかかり携帯を取り出す。
「いってらっしゃい、って…どうしたらいいの?」
「挨拶よ、挨拶。ここに入学したこと先輩知らないんでしょ?『先輩を追いかけて頑張って入学しました!』までは言わなくてもいいけど、ちゃんと存在アピールしておかないと何も始まらないよ」
携帯をいじりながらしっしっと私を追い払う。
「…分かった。行ってきます」
楓ちゃんの言葉に意を決して、先輩の後を追いかけ講堂の裏へ向かった。