君に染まる(前編)


「珍しいね、
未央がまじめに授業受けないなんて」



「授業…」



…午前の授業の記憶が無い。



「なんかあった?
今朝だって突然いなくなっちゃって、
帰ってきたのもHRギリギリだったし」



「それは…」



…言えない…というか、言いたくない。



植野先輩のあんな姿…。



「…あ、植野先輩だ」



うつむいていたあたしは
楓ちゃんの言葉に顔をあげた。



楓ちゃんの視線をたどると
教室のドアのところで
あたしに向かって
笑顔で手招きをしている植野先輩がいた。



「行かないの?」



先輩を見つめたまま動かないあたしを
楓ちゃんが覗きこむ。



「…ううん…行く」



小さな声でそう言って席を立った。





「食事中にごめんね、大丈夫?」



「大丈夫です…どうしたんですか?」



「いや…昨日のことなんだけど…」


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