君に染まる(前編)
殴られて切った口元を押さえながら
めんどくさそうに呟いた。
「てめっ…」
パシッ
にぶい音が響いた。
殴りかかろうとした獅堂先輩より
先に植野先輩に手をあげたのはあたし。
「……ごめんなさい」
小さな声で謝ったあたしは
すぐにその場から立ち去った。
誰もいない裏庭に入った瞬間
再び涙が溢れだす。
「……っ…」
あたしバカだ…。
あんな人だなんて知らずに
ずっと憧れて…。
植野先輩がいるからって
ここに入学して…。
「ほんとバカ……」
しゃがみこみ、
今までのことを思い出しながら
止まらない涙を流し続けた。
「結構やるじゃん」
突然裏庭に響いた声に
びくっと反応して顔をあげる。