涙の音
「ん…」
奈未が目を開ける。
「奈未?大丈夫?」
「うん…大丈夫…ここ病院?」
「奈未、編集室で倒れたんだよ」
そう言って雪斗は、奈未のベッドの横に椅子を出し座った。
「雪斗…ちょっといい?」
マネージャーが、座ったばかりの雪斗を呼び出し病院の待合室へと向かった。
「ねぇ、奈未には聴覚の検査をすると言う事と聴覚に異常があっても言わないでほしいの」
マネージャーの言いたい事は直ぐに理解が出来た。
「わかった。でも自分で気付くんじゃないんですか?いつかわ……………」
嫌な予感が過った。
“もしかしたら”なんて想像して。
マネージャーの話している言葉が聞こえなくなる程頭が真っ白になった。
病院の薄暗いロビーの中を恐怖感が覆う。
自分の心のなかで、“そんな事ない”と何度も何度も繰り返した。
―僕は、弱いから。奈未を守る事が出来ず逆に嘘をついた。
いや、それが奈未を守る方法だと勝手に思っていた。
ここまで来るのに長くて、もう少しで届きそうな目の前の夢は簡単にも壊されていく。