不器用な指先
ふと彼の手がピクッと動いて、私のデニムのポケットから携帯を抜き取った。
『あっ…ちょ…』
言葉を発した瞬間
不思議な不思議な魔法が解ける…
薄い膜の向こうから聞こえていた街行く人々の声が、急にはっきりとした輪郭を帯びて耳の中に流れ込んできた。
時間が止まっていたのは…
ほんの…
数秒……?
次第に身体に感覚が戻ってきて、ドクドクと音を立てる心臓に違和感を覚える。
『ほーら…すんげぇメール来てる』
『………』
携帯の液晶から放たれた小さな光が、彼の得意げな表情を浮かび上がらせた。
『…新着メール48件……留守電メッセージ…23件…』
『……っ』
さっきよりも増えている透からの声の数に、つい唇を噛む。
『…これでも…心配されてないって……思う…?』
透……
透………っ
心配そうな顔で
携帯を耳にあてたまま夜道で私を探す透の姿が
見えた気がした…
『……いいの…?…帰んなくて…』
私の頭の中で
昨日と透と優花の映像が
私を心配する透の顔に
消されていく……
透…
透…
あたし……っ
『あ…ほーらまた彼氏からメールが来……』
ライトに照らされた彼の言葉が止まる。
『…なに…どしたの…?』
『いや…なんか友達からメール来たっぽいけど…?』
『え…誰……』
透じゃなくて…?
誰からだろう……?
私は彼が手にしたままの携帯の画面を覗き込む。