不器用な指先
少し水気を含んだ髪をタオルで押さえながら、ゆっくりとシャワー室を出た。
『…お、水もしたたるイイ女…』
ベッドに腰かけた少年は、二ッといたずらっ子のように笑いながら零す。
『…バカ……』
照れを隠すように、私は髪を拭く手の動きを荒くした。
年下の少年の言葉につい頬を染めてしまった自分に少し納得がいかない。
なに動揺してんだ私は…
視線をそらす私。
そんな私の気持ちを見透かしたかのように彼は小さく鼻で笑い、ベッドから立ち上がった。
キシ…というベッドが軋む音に思わ身体が小さく強張った。
彼はゆっくりと私に近づくと、無邪気な微笑みを浮かべる。
『…んじゃ、俺もシャワー浴びてくるわ』
『う…うん…っ』
思わず上擦った声にまた頬が紅潮する。
『クッ………いいよ?俺がシャワー浴びてる間にいなくなっても…俺、無理強いは好きじゃねぇから』
『なっ……そんなことしないわよ!』
『……そう?』
『当たり前じゃない…!誘ったのは………私の方なんだから……』
後半の自分の声が小さくなるのが分かった。
そうよ…
もう決めたの
こうしなくちゃならないの
私は大人ぶって笑う彼を強気な目で見つめた。
『……ちゃんと…此処で待ってるわよ……!』
何をこんなにムキになって
何にこんなに意地を張っているのか
もはや分からなくなってきそうだった。
頬を膨らませて言う私に、またもや彼は苦笑いを浮かべる。
『分かった分かった。そうだよな、誘ったのはおねーさんの方だもんな。大人は自分が言い出したこと……撤回するなんて卑怯なことはしないよな?』
『………っ』
私が言い返す前に、彼はまるで私を茶化すかのように笑ってシャワー室へと消えた。