不器用な指先
【田村 優花 19:48 実冬へ】
一つだけ浮き上がる
透以外の人物からのメール…
『…優…花……』
親指が微かに上にずれ、決定ボタンを押す準備に入る。
優花のメールくらいなら今読んでも……
私が生唾を飲み込んだ途端、シャワー室の扉が開く音が響いた。
『!』
私は慌ててデニムと一緒に携帯を床に投げた。
足元に無造作に広げられたデニムの上にのっかった携帯電話。
『…おいおい、たたむかなんかしろよー』
また苦笑い浮かべる彼。
私はわざと平然を装いながら余裕の口ぶりで答える。
『…こ、こーしてる方が落ち着くの。なんか…こう……自由な感じが…ね?』
余裕ぶったはず…が、逆にわざとらしさを醸し出してしまっていた。
『…ふーん…?ま、俺はどっちでもいいけど?』
『そ…そう…?』
そこでただデニムをたたんで、そのポケットに携帯を押し込めばいいだけ。
なのに最後に見てしまった「田村優花」という名前のおかげで、
私はそこに転がり落ちている物体に嫌悪感を抱いてしまっていた。
未読を知らせる小さいランプがチカチカと光っている。
ベッドに横になっても見えるその光が
ひどく私の胸をしめつけていた。