不器用な指先


【田村 優花 19:48 実冬へ】



一つだけ浮き上がる

透以外の人物からのメール…



『…優…花……』


親指が微かに上にずれ、決定ボタンを押す準備に入る。


優花のメールくらいなら今読んでも……




私が生唾を飲み込んだ途端、シャワー室の扉が開く音が響いた。


『!』

私は慌ててデニムと一緒に携帯を床に投げた。

足元に無造作に広げられたデニムの上にのっかった携帯電話。




『…おいおい、たたむかなんかしろよー』


また苦笑い浮かべる彼。
私はわざと平然を装いながら余裕の口ぶりで答える。

『…こ、こーしてる方が落ち着くの。なんか…こう……自由な感じが…ね?』


余裕ぶったはず…が、逆にわざとらしさを醸し出してしまっていた。


『…ふーん…?ま、俺はどっちでもいいけど?』


『そ…そう…?』


そこでただデニムをたたんで、そのポケットに携帯を押し込めばいいだけ。


なのに最後に見てしまった「田村優花」という名前のおかげで、

私はそこに転がり落ちている物体に嫌悪感を抱いてしまっていた。



未読を知らせる小さいランプがチカチカと光っている。

ベッドに横になっても見えるその光が

ひどく私の胸をしめつけていた。






< 37 / 75 >

この作品をシェア

pagetop