不器用な指先
『…ね、あんた名前何て言うの?』
上に覆いかぶさる男性に尋ねる。
『クッ…めちゃくちゃ今更…』
近付く微笑みに小さく心臓が反応した。
『だって…そういえば名前聞いてなかったなぁって思って……』
私がそう言うと、彼は切なそうな表情を浮かべた。
『……「響」……』
『「ひびき」……?』
『…そ……俺の名前は「響」だ……』
―――響―――
心の中でまた小さく繰り返した。
薄明かりの中に浮かぶ響は、初めてあった時とは少し違う人のようだった。
チャラチャラしたピアスが外されているせいか
微かに水気を含んで下ろされた前髪のせいか
違う人のように見えて少しだけ怖くなった。
『…おねーさんは…?』
『え?』
『おねーさんの…名前は…?』
―名前に冬が入ると色が白い子になるのかな―
『「実冬」よ……』
『「みふゆ」…』
『そう…実る冬って書いて…「実冬」』
『冬に生まれたから?』
『…珍しいくらいの大雪の日に生まれたんだって…』
私がそう零すと、響は無邪気な笑みを浮かべた。
『あぁ、だから雪みたいにこんなに色が白いんだな』
『………っ』
彼が…
透が見せなかったそんな無邪気な笑顔で
透と同じ台詞なんて言わないでよ……
胸の痛みをごまかすように、響の背中に爪を立てた。
ベッドから見える、床に転げ落ちた携帯が、暗闇の中でピンクの光を発していた。
透からの着信の時だけ光るように設定していた…
ピンクのランプ……
携帯を片手に、私を探す透の姿が頭によぎる。
響に抱かれながら
私はそのランプが消えゆくのを見つめていた。