不器用な指先
『…っ……ごめん実冬…』
頬が
痛い。
透に
ううん
男の人に
頬をぶたれたのは
初めてだった
透のこんなに狼狽した顔を見たのも初めてだった。
いつもは私が何をしても、少し困った顔をしながらも優しく微笑んでくれていた透。
なのに今
透は目を見開いたまま、信じられないといった表情で自分の右手を見つめている。
私の頬より
貴方のその手より
何より貴方の心が痛いのだと
どうして分かってやれなかったのだろう。
信じてもらえないことがどれだけ辛いことなのか
どうして分からなかったのだろう。
いつも穏やかな貴方があんな顔をするなんて
それだけ傷付いていた証拠なのに
なのに私は
誰より何より
一番痛いのは自分の頬だと
一番辛いのは自分だと
そう思い込んで泣き叫んだ。
痛い
痛いと
貴方の前で頬を押さえて泣き叫んだ。
いつもなら泣き叫ぶ私の肩をそっと抱きしめてくれる透は
私がどんなに泣き叫んでも
視線を私に向けることなく
ただその右手を見つめていた。
微かに震えているその手に
私は申し訳なさなど感じなかった。
私は悪くない
私は悪くない
私の友達と…優花と二人で会った貴方が悪い
内緒で会った貴方が悪い
優花は透のことが好き
それを知っていたから
私は尚更腹が立っていた。
透が優花の気持ちを知っていたのかは分からない。
けれど
わがままでいつも貴方を困らせる私より
貴方が優花を選ぶんじゃないかと
怖くて怖くて
その不安を
またわがままでぶつけるしかなくなっていた。