不器用な指先
最期の声
『はぁっ…はぁっ…』
頭の中は真っ白で、ただひたすら足を動かして前に進むだけ。
透の元へ向かうだけ。
しばらく走ったところでふと気付く。
熊谷病院って…
透がいる病院って…
私が走っていける距離なんかじゃない…。
絡まりそうになるほどに動かしていた両足を止める。
そうだ…タクシー…
タクシー使わなくちゃ…
早くしないと…間に合わないかもしれない…
『………っ』
―間に合わない―
その言葉が意味するものを想像して、背筋が凍った。
早く…早く行かなくちゃ…
身体が思ったように動かない。
『ど…しよ…タクシー……透…透…っ』
思考と身体が上手くいかず、じれったさの余り、泣きそうになる。
涙目で周囲を見渡していると、やっと【空車】のランプの灯ったタクシーを見つけた。
私は、縋るような気持ちでそのタクシーの中に乗り込んだ。