不器用な指先
『………っ』
私は自分の痛みを当て付けるようにして部屋を飛び出した。
部屋を出る直前に見た透はまだ目を見開いたまま私をぶった手を眺めていた。
それが
私が目にした
最期の透の姿だった。
透の家のマンションの階段を駆け降りる。
エレベーターだと待っている間に透に追い付かれそうだと思った。
本当は
追い掛けて
無理矢理にでも抱きしめて欲しかったくせに。
なのに
階段にはわざとらしく鳴らすヒールの音だけが響いて
私を追い掛ける靴音は
聞こえては来なかった。
マンションの外に出ると、秋の夕方は思った以上に肌寒かった。
薄いベージュのカーディガンを透の部屋に置いて来たままにしたことを思いだし、ふと振り返る。
5階の一番端の透の部屋に灯っている明かり。
あの部屋で
私が飛び出したあの部屋で
透はまだ痛む右手を見つめているのだろうか。
違う
痛いのは私の頬の方だ。
何故ぶたれなきゃならない?
悪いのは透じゃないか。
私は肌を弾かれた感覚の残る左の頬に手を当てる。