不器用な指先

『とっ…透は…うちの息子はどうしたんですか!大丈夫ですよね!?助か…』

『御家族の方はこちらでお待ち下さい!!』

看護婦は女性の腕を振り切りながら、言い放った。

少し開いた扉からは

ピピピ…ピピピ…と、生命の警告音が鳴り響いている。

透の…命の警告音が…。


『何…!?ねぇ…この音は…この音は何なの!?透は…透は…っ!!』

『御家族の方の立入はご遠慮下さい!』

看護婦はそう言うと、女性を押し退けて手術室の中に飛び込んで行った。


無情にも閉じられた扉にへばりつき、女性の身体はその扉に沿うように崩れ落ちていく。


『透…透っ……あぁ…』

扉の向こうからは、慌ただしい声、耳をつんざく警告音。


な…に…

なにが…起こってるんだろう…


まるでテレビを見ているかのように、私はただ呆然とその光景を眺めていた。


自分には関係ないんだ

これは他人事だ


言い聞かせても

言い聞かせても



今あの扉の向こうで息絶え絶えになっているのは
私の恋人の透だということは明らかだ。

だって

その扉に寄り掛かって泣き咽んでいるのは

間違いなく、透のお母さんだったのだから。

< 50 / 75 >

この作品をシェア

pagetop