不器用な指先
『とっ…透は…うちの息子はどうしたんですか!大丈夫ですよね!?助か…』
『御家族の方はこちらでお待ち下さい!!』
看護婦は女性の腕を振り切りながら、言い放った。
少し開いた扉からは
ピピピ…ピピピ…と、生命の警告音が鳴り響いている。
透の…命の警告音が…。
『何…!?ねぇ…この音は…この音は何なの!?透は…透は…っ!!』
『御家族の方の立入はご遠慮下さい!』
看護婦はそう言うと、女性を押し退けて手術室の中に飛び込んで行った。
無情にも閉じられた扉にへばりつき、女性の身体はその扉に沿うように崩れ落ちていく。
『透…透っ……あぁ…』
扉の向こうからは、慌ただしい声、耳をつんざく警告音。
な…に…
なにが…起こってるんだろう…
まるでテレビを見ているかのように、私はただ呆然とその光景を眺めていた。
自分には関係ないんだ
これは他人事だ
言い聞かせても
言い聞かせても
今あの扉の向こうで息絶え絶えになっているのは
私の恋人の透だということは明らかだ。
だって
その扉に寄り掛かって泣き咽んでいるのは
間違いなく、透のお母さんだったのだから。