不器用な指先
ふと一人の男性が、透のお母さんの肩に後ろから優しく両手を添えた。
『母さん…大丈夫…透は大丈夫だ…』
少しやつれたような顔でそう囁くのは、透のお父さんだった。
いつも笑顔で優しいお父さん。
私が透の実家に遊びに行くと、いつもお手製の梅酒でもてなしてくれたお父さん。
そのお父さんの声がまるで聞こえてはいないかのように、お母さんは扉の向こうに呼び掛け続ける。
『あぁぁ…透……透っ…』
一枚の扉を隔てた向こうにいる愛しい息子に呼び掛けるように、お母さんは透の名前を繰り返す。
少し気が強くて、元気のいい透のお母さん。
こんなにも脆くて壊れてしまいそうな彼女の声を
私は聞いたことがなかった。