不器用な指先
信一さんが発した言葉に、お父さんとお母さんの視線が一気に私に向けられた。



『実…冬…ちゃん…』

もの悲しそうにお父さんが呟くと、お母さんは椅子に腰かけた身体を浮かして私を見た。


『来て…くれたの…実冬ちゃん……』


お父さんは、今にも私に駆け寄りそうなお母さんをなだめて、再び椅子に座らせた。



『あ…の…透…は…』

搾り出した私の声に、信一さんは顔を歪めた。

そして、ゆっくりと私に近づいて来る。


『…大隈通りの…交差点で…大型トラックに…』

『…違…う…そうじゃなくて…』

『え…?』

私は信一さんに飛び掛かった。

『透は…!?透はどこ!?どこにいるの!?…ねぇ!?ねぇ!?』

見開いた視線は、信一さんではなく、何か別のものを捕らえているようだった。

彼の衣服を掴んだ腕は、まるで自分のものではないようだった。


紡ぎ出される叫びは―


まるで自分のものでは


ないようだった…。

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