不器用な指先


『…最善は…尽くしましたが…』


医者は、その言葉の続きを補おうとはしなかった。





『い……嫌あぁぁぁあっっっ!!!!!』


泣き崩れるお母さん

壊れるように叫ぶその身体を支えることすら忘れたように

呆然と立ち尽くすお父さん







―あら~実冬ちゃん、いらっしゃい!―



―お~実冬ちゃん、よく来たね、ほら、また梅酒用意するから、夕飯食べて行きなさい―




透の実家に行った時に、いつも出迎えてくれる二人の姿は

もう…

そこにはなかった。
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