不器用な指先
頬の痛さと
身体に突き刺さる冬の前触れの冷たい風。
少しだけ透の温もりが恋しくなった。
けれど
ふと頭の中に、偶然街中で見かけたあの光景が甦る。
透の隣で、幸せそうに微笑むあの子の…優花の姿。
『ごめんね…実冬…私…透くんのことが…ずっと好きだったの…』
それでも邪魔したりしないからと。
すぐに忘れてみせるからと。
友達のままでいようと言ったのはそっちでしょう、優花?
違う。
私がこんなにも悔しいのは
腹が立つのは
透が
いつも優しかった透が
私だけを見て
私だけを愛していると思っていた透が
私以外の女の子の隣に存在していたからだ。
手を繋いでいたわけじゃない。
口付けをしていたわけじゃない。
ましてや、浮気なんて透は絶対する人じゃない。
分かってた。
そんなの分かってた。
何か理由があるはずだと。
『え?その日は一緒に映画見に行こうって言ってたじゃない』
『ごめんな。どうしても会社に行かなきゃならないんだよ。遅くなるかもしれないけど、終わったらすぐ電話するから。な?』
けれどその日の夕方に街で見かけた透はスーツになんて身を包んではいなかった。