蜂蜜色の魔法使いへ
Prologue*森の知らせ
気持ちのいい風が、カーテンを揺らし、頬を撫でる。
部屋の中、薬草の辞書に伏して眠っていた少女は、何かをこつこつと叩く音に瞼を上げた。
「……?」
机から体をおこすと、少し開いている窓の隙間に鳥がいた。
少女の家に住み着いている、白い鳩だ。
おや、と少女は思った。
まだ餌の時間ではないし、ただ遊びにやって来たわけでもなさそうだ。
「…何かあったの?」
少女が窓を大きく開けて鳩を部屋の中に招き入れると、鳩は少女の肩にとまり、少女の頬に擦り寄ってくる。
「ふふ、くすぐったいよ。」
ここに来る動物たちは、飼っているというより、少女にとっては友達に近い。
「…なあに?」
少女が尋ねると、鳩は、少女にだけしか分からないような鳴き方をした。
「…………え、」
少女の顔が固くなる。
撫でる手が止まり、鳩が不思議そうに少女を覗いてきたが、それすら気付かない。
少女はじっと、窓の外を見つめていた。
「………。」
鳩の友人は少女に伝えに来たのだ。
この静寂の森に、来客がやって来たことを。