魚と青年
宇宙人アラワル
あれは何だ?
僕は、一度足を踏み入れたはずの浴室から逃げるように出て、後ろ手にスライド式の扉を閉めた。
目の錯覚か?
僕は脱衣所をキョロキョロと見回した。
そこにあるのは、やはり見慣れた空間だ。
使い古した全自動洗濯機に洗面台。洗濯機の上の棚に並んでいるのは洗濯洗剤やら柔軟剤やらだ。どれも自分で購入したものだから、見覚えがあるのも当然である。
僕は息を吐き、もう一度自分が見たものを反芻した。
それは確かに生活する上では見慣れたものだった。スーパーに行けば売っているし、川や海でも見る事は可能だ。しかし、風呂場ではどうだろう?
いや、ありえない。
寝ぼけていたのかもしれないな。
そうさ、そうに決まっている。
僕は自分にそう言い聞かせ、もう一度、浴室の扉を開けた。
「まったく、入ったり出たり、落ち着きのない奴じゃな」
そいつ(?)は、先刻と何ら変わらない体勢で湯船に身を浸したまま、僕の方を見て、そう言った。
「うぎゃ~!魚がしゃべった!」
浴室中に僕の悲鳴が響き渡り、それを聞いたそいつは「はぁー」と溜息を漏らした。
「落ち着きがないだけじゃなく、うるさいやっちゃ」