魚と青年
 言われるまま、カーテンの隙間から、外を覗くと、アパートの前で、たむろしていたマスコミ関係の怪しげな集団がどこかへ移動していく。

「あれ?」

 玄関を細く開けて外を見ると、ついさっきまで、扉の向こうで粘っていたリポータ-が引き上げていく後姿を見る事ができた。

「あれ?俺、一体、こんな所で何していたんだろ?」

 遠ざかっていくリポーターがしきりに首をひねりながら、呟いた言葉を僕は聞き逃さなかった。

 僕はすぐに振り返って魚の宇宙人を見つめた。

 こいつが、アパートの周りにいる人間達の記憶を消した?(あのリンボーダンスで?)

「よかったのう?これで誰にも怪しまれることはないぞ」

 ニコニコと巨乳アイドルの姿で魅惑的な笑顔を振り撒き、事も無げに言ってのける魚の宇宙人。

 そう言えば、この宇宙人は居候をする事を決めた時も僕の記憶を消すつもりだった、というような言葉を口にしていた。

 人間の記憶を操作する(しかも、リンボーダンスで)。そんな事を容易にやってのけてしまう魚の宇宙人。
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