魚と青年
宇宙人タベチャッタ……



僕のアパートの部屋から魚を焼くいい匂いがしていた。

(今日は焼き魚か)
会社から帰ってきて、自分の部屋のかぎを鍵穴に差し込みながら、ぼんやり今日の食卓を思い浮かべていた。

今日は魚の宇宙人との同居生活一週間目だ。今日、宇宙船が魚の宇宙人を迎えにくる。

思い返せば、一週間などあっという間だった。

つまり、今日で魚の宇宙人とはお別れという事だ。

ホッとしたような寂しいような、複雑な気持ちである。

僕は、そんな複雑な感情を抱えたまま、玄関を上がって部屋に一歩踏み入れた。

そして、古い型のキッチンを使っているのが魚の宇宙人ではない事に気がついた。

「母さん?」

「遅かったねぇ。今日は近所までくる用事があったから寄ってみたよ」

「あ、そうなんだ」

 言いながら気になるのは魚の宇宙人の事である。奴には人の記憶を操作する力があるから、姿を見られても何も困らないだろうと思うものの、僕の部屋のどこにも魚の宇宙人がいる気配がしないのだ。

「母さん、魚の……」

 宇宙人の事を知らないか?と聞こうとして僕は言葉を呑んだ。自然に母さんが料理している手元に視線が向いてしまう。

 母さんは僕の視線を感じて「ああ、これね」と笑った。
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