魚と青年
「お前の部屋に来たら卓袱台にマグロが丸ごと一匹置いてあるから魚屋さんで捌いてもらって料理しているところだよ。それにしたってマグロって高いんだろ?お前、どこから持って来たんだい?」

 え?卓袱台に置かれたマグロ?

 言うまでもなく、僕はそんなのは知らない。

僕の心臓がどきどきしている。

 いなくなった魚の宇宙人。

 魚を捌いてもらって料理している母さん。

 まさか……まさかそんな事ないよな?

 そう思いながらも流しをのぞくと、切り取られた魚の頭が転がっているのが見えた。

 濁った目で僕を恨めしそうに睨んでいるように見える。

 魚の宇宙人。

 まさか、まさかお前なのか?

 どうしてこんな事になったのか、なんて考える事はできなかった。それほどに僕のショックは大きかったのだ。

 結婚前は調理師免許を取って料理人見習だったという母さんは、今は漁師の妻である。見事な手さばきで、魚料理を卓袱台に並べていく。

「使い切れなかった分はうちに持って帰ってもいいかい?」

 母さんのその言葉にも僕は頷く事しか出来なかった。

 魚の宇宙人。

こんな変わり果てた姿になっちゃって……。
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