魚と青年
 あんまりな物言いに僕は魂が抜けたように、その場で倒れこんでしまった。




 ハッと目を覚ました僕は、何事もなかったように使い慣れた煎餅布団の上で眠っていた。

 そうか、あれは夢だったんだ。あんな事、現実にあるわけないもんな。

自分が夢を見ていたのだという事に納得した。

ここ最近、仕事が忙しく、睡眠も十分に取れていなかったからあんな夢を見たのかもしれない。

そう思いながら、体を起こすと自分の傍らに夢に出てきたそいつが、鼻提灯を鼻(?)から出しながら眠っている(?)のが目に入った(目が開いたままだが、本当に眠っているのか?)。

「うわー!」

 僕の叫び声に花提灯が壊れ、そいつが大きくて丸い目を僕に向けた。

透明な丸い目。

体中を覆う鱗や鰭。

誰がどう見ても、そいつは明らかに魚だった。

その魚は尻尾を足の代わりにして立っていた。

魚の種類は分からないが、大きさはマグロぐらいあり、青光りした鱗が特徴だ。

僕は、近所のデパートの開店祝いで行われた、マグロの解体ショーを思い出していた。

「ホンマ、うるさいやつじゃ。誰がここまでお前を運んだと思っとる!」

 そんなの頼んでないよー。
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