魚と青年
 そう言い返したいのに、僕は口をパクパクとさせ、酸欠の金魚のような仕草を繰り返すだけだ。

僕は目の前で起こっている事を現実と受け入れられないでいる。

「おま、おま、おま、おま!」

 ようやく言葉になったのは「おま」という意味をなさない単語だけだった。

「若者よ、人に指を指すでない。それは失礼というものじゃろう」

 魚に諭されている僕。かなり情けない感じだ。

 いやいや、それ以前に、お前は『人』ではないだろう!

「どうして喋っているんだ!魚が!」

 しかも、熱い湯舟につかり、人間に説教までする。そんな魚がどうして存在するんだ?

「失礼な。ワシは魚ではないぞ」

「どこをどー見ても魚だろ!」

 僕の言葉に魚は肩をすくめ(?)「はー、やれやれ」と首を振った。

「ホント、この地球という星の人間は頭が固くてかなわん。ワシの星ではみんなこんな姿をしておるぞ」

「は?」

 ワシの星?

 つまり、目の前にいる魚は……宇宙人?

「お前、宇宙人かー?」

 またしても魚を指差してしまった。そんな僕の指先を魚の宇宙人は鰭でペシンと叩いた。

「指を指すでないと言っておろうが!」

 心なしか、魚の表情が凶悪になった気がする。
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