~Snow White~『ニ巻』
溢れる涙をおさえきれなかった。

大柴と聞いた時
どうしてここを立ち去らなかったのか


見たくないという気持ちと
見てみたいという気持ちが
激しくぶつかり合っていた。


家庭人の竜平はとても幸せそうだった。
そして竜平が選んだ相手は
もっと幸せそうだった。


ちーちゃんの涙をふいたハンカチを
ポケットにねじこんだ。



「おとーたま、だっこして。」


「もうどこにもいかないように
だっこしてやるよ。
ちー・・・おとうさんは
今、もうこれ以上何ものぞまないから
千秋を僕のところに
おかえしくださいって……お願いを
何度もしたよ・・・・」


巷では誘拐事件が起きていた。


「よかった・・・・
宝物が全部そろって。」


小学生の男の子の頭を撫ぜて
女の子の頭を撫ぜた。


それからちーちゃんにキスをして

妻のお腹を撫ぜた・・・



そして妻を引きよせ額にキスをした。


そこには幸せそうな家族がいた。
利香は、残酷な風景を目に焼き付けた。


「ここにもいるよ・・・・
宝物が・・・・・・
忘れちゃってんのかな?パパは……」
言い出せずにいた、利香のお腹の中に
宿った命を利香は優しく撫ぜていた。
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