手のひらの終焉
アモーレの暖かな体温を思い出す。
 
こんなところで、そんな感覚に浸っている場合じゃないのに。
 
ふと思い直して、ふたをキュッと閉めると、

別のポケットにしまった。
 
それから、本来取り出すハズだったナイフを抜き出した。
 
ナイフを持った手を、ぶらりと垂らせたまま、

折りたたまれた刃先を、飛び出させる。
 
体の自由の利かない男は、それを見て、目を大きく見開いた。
 
恐怖がその目を満たしていく。

 
他人にはヒドいことしておいて。
 

ゆっくりとナイフを構える。

と男は、恐怖に歪んだ目でそれを見ると、何と、失神してしまった。

他愛のない。
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