タレントアビリティ
 スーパーからの帰り道。待ってましたとばかりにイベントが発生してしまった。

「あ」
「あら」

 金髪を流したまま自動販売機でコーヒーを買っていたのは、放課後出会った歌姫だった。制服のままだがバイオリンケースが無い。一度帰った後だろう。

「あの、ごめんなさい……」

 出合い頭に謝るのは、やっぱり風音だった。おどおどとした瞳を揺らめかせて顔を上げると、じっと添の言葉を待っている。

「気にしないでいいよ」
「でも私、あんな風に人に怒鳴ったのって初めてで……。それに、あんな感情的になることも初めてでしたから……。本当に、すみません……」
「……じゃあ俺だって悪い。お前の言葉を受け入れずに、そのまんま青い意見を押し付けてたじゃん」
「でも、悪いのは私で……」
「どっちでもいい。この話はおしまいでいいだろ?」

 何となく口が寂しくなったから、風音の隣で飲み物を買う。缶コーヒーを手にしたとき、能恵の背の低さを改めて実感した。あれで23歳って、やはり信じられない。

「風音さんが下手だって自分で思うのならそれでいいさ。まあ、俺は上手いって思ったけど」
「……そんな事、無いです」
「意見の1つとして、さ」

 アイスコーヒーを1口。屋上で気付いたけれど、もう秋だなと冷たさで実感した。そろそろホットが美味しい頃合い。

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