タレントアビリティ
「でも、なんでそんなに?」
「下手なものを下手と評価して何が悪いんですか? あなたは例えば、美しい風景を美しいということに、何か理由を持つんですか?」
「う……」
「それと同じです。下手なものに理由はいらない。下手だから下手、そういう事ですよ……」

 妙に納得のいく答えだった。美しいものに理由はいらない事と同じように、下手なものに理由はいらない。それは確か。
 でも添にとって、いや、添の通う学校の生徒が彼女を歌姫と呼ぶように、客観的に見ても風音の演奏は下手ではない。いや、むしろ上手い。なのに何故か風音はそれを認めない。

「奇遇でしたね」
「ん、ああ、そうだな」
「空白さんはなんでこんな時間に、こんなところで?」
「カレールー買いに。風音さんは?」
「……休憩ですよ」

 自動販売機から背中を話して、風音が何となく悲しげに言った。微かに曇った表情のまま、笑って風音は言う。

「練習しなきゃ、ですから。じゃあ空白さん、また」
「ああ、じゃあね」

 それだけを言い残して、風音は髪を揺らしながら小走りで立ち去っていった。風音の残したコーヒー缶が風で倒れて音を立てる。寒さが大分、増していた。
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