タレントアビリティ
「おっそい!」

 添を待っていたのは、焼きたてのナンをハリセン代わりにして顔面を叩いた能恵だった。ナンは熱々で粉付き。食べ物で遊ぶな。

「悪い……」
「しかも何買ってんの……。レトルトカレー買ってどうするつもり? もう、野菜も何も細切れで待機させてるのに……」
「あのー、能恵さん。レトルトカレーとカレールーの違い……、へぶぅ!」

 もう1撃喰らった。粉っぽい顔を手で拭っていると、能恵が頬を膨らませて添のビニールを取った。それを眺めて頷いて、それから微笑む。

「まあ、いいよ。これでも作れない事はないし、日本でインド料理作ろうって事が間違いなんだよねー」
「じゃあ何で叩いたんだ……」
「ナンで叩いたけど?」

 言葉遊びではない。気を取り直して畳に座ると、ちゃぶ台には切ったキャベツが積んであった。部屋の隅には本格的なナン焼きの壷。この辺がこだわりだ。

「レトルトカレーだからー。テキトーにやりますか」
「適当でいいのか?」
「いいの。さ、紅茶入れてねそえ。葉っぱは準備してあるから、角砂糖たっぷりで」
「紅茶?」
「雰囲気だけー」

 ニヤニヤと笑いながら台所で何やら作っている能恵。レトルトカレーでどれほどのキーマカレーが出来るかの答えなんてとっくに分かっている。
 溜め息1つ。それから添は角砂糖を探すために立ち上がった。
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