タレントアビリティ
「風音ちゃんに会ったんだー」
「たまたまだよ、たまたま。ちょっと話したから遅くなった」
「ふぅ~ん……。んで? きちんと謝りましたか?」
「イエスマム……、ってすみませんまだまだピチピチですよ能恵さんは。だからそんなカレー付きナンを構えないで下さい!」
「……ちぇっ」

 口を尖らせてあからさまに悔しがる能恵。レトルトキーマカレー(しかもレトルトカレーは1つ80円のバーゲン品)の味はそこら辺のインド人真っ青の味がした。当然美味しいし、辛い。
 能恵はナンを食べながらニタニタと笑っていた。何を考えているのかよく分からないが、まあ少なくとも不機嫌ではない。

「どうだったの?」
「まあ、許してくれたよ。でも頑として曲げなかった」
「やっぱりか。ふふ、さすが拍律の娘さんね」
「……どゆこと?」
「ばっさばっさと話すけどね。拍律って言ったらかなり有名な音楽一家なのよ。風音ちゃんのおじいさんがオーストリアの出身でね。まあ当たり前のように才能を受け継いだ風音ちゃんのお父さんも日本で花咲かせた。もちろんお嫁さんも、音楽のプロフェッショナル」
「音楽一家ってことか」
「でもね、どうやら風音ちゃんはいまひとつだったみたい」
「あれで!?」

 驚いてしまった。1人四重奏に問答無用のバイオリン。なのにあれで、いわゆる劣化。

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