タレントアビリティ
 相変わらずの腹黒さだった。しかもどこか計算したような言葉遣い。あの能恵でさえ手玉に取ろうとでもいうのか。
 万はそういう性格ではある。クラスメートとは近づいたり離れたり、それは家族も同じ。添とはどこか反するからこその繋がり。それ以外とは絶妙な距離感。
 だからこそ、だ。嫌われるような事をしようとも近いような遠いような距離感のために、何と無くうやむやにされて毎回片付く。添が知るクラスメートの何人かがそんな風に評価していたのを、確か聞いた。

「イケますでしょ? イケます? ああ、はい、ありがとうございます。助かりますぜ能恵さん。俺はそのガキと何と無くシンパシー感じたりしちゃいますから。え? 悪ガキ過ぎる? そりゃ能恵さんが善人だからでしょ」
「そりゃねぇよ……」
「あー、あとさっき空白が能恵さん善人説否定してましたから、また美味しいクレープでも作ってやってください。はい、失礼しました。詳しくはまた後日、はい」

 さりげなく地雷まで踏ませた万が携帯を突っ返す。苦虫を噛み潰したような表情の添に、万は軽々しく言った。

「生意気なクソガキにはお仕置きが必要なのさ」
「そりゃお前じゃね?」
「俺はただのひねくれヤローで、そいつは世間様知らねぇガキ。俺も世間様知らねぇけどな」
「……なあ、お前能恵さんが世間知ってると思う?」
「決まってるだろぉ? んなもん答え出してっから、だから俺はお前じゃなくて能恵さん選んだんだよバカヤロー」

 チャイムが鳴り響く。グラウンドには体育を待ち切れない男子生徒達がサッカーボールを蹴飛ばして騒いでいた。
 万はフェンスを離れてドアへと向かう。添もそれについていくのだが、その間にさっきの質問の答えが出た。

「ノーだよノー」
「……正解」

 ひねくれヤローらしい判断基準だった。
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