タレントアビリティ
「今日は寿岳が休みか。では、号令」

 その翌日、万は学校にいなかった。ぽっかりと空いた彼の席をぼんやりと眺める添の脳内には、昨日の彼のひねくれた発言と笑顔がちらついていた。
 絶対何か企んでいる。能恵となにかやろうとして、下手すればまた巻き込まれる。幸いこの帰りのホームルームまで音沙汰は全く無かったからよかったものの、時間の問題だということは明らか。
 起立、気をつけ、礼、を華麗にスルーしても担任の話をスルーはしない。聞き漏らした時に物事を誰かに聞く相手が、添には不幸にもあまり多くない。

「また余計な事やらかしてないといいけどな……」

 携帯をパコパコ開閉しながらそんな風に不安視するが、無駄だということは分かっている。
 仮に添が能恵のブレーキになっているのならば、万は能恵のアクセルになってしまう。万の悪知恵は能恵のそれを越えていて、無茶苦茶な悪知恵を能恵は実現可能に出来てしまう。最悪かつ最高の組み合わせ。同居人としても自分より万が向いているだろう、と添は諦めてはいた。
 ただまあブレーキが無いととんでもない事になる。添の知る限りでの能恵の仕事もそうだし、その枠組みを越えた能恵の仕事は歴史に残るレベルなのだ。例え非合法的なものだとしても。

「やめてくれよ、危ないのは」

 だからブレーキにならなくてはならない、のかもしれない。少なくとも能恵を犯罪者にはしたくない。実際もう犯罪者なのだが、それを露呈させたくない。

「はいじゃー今日はもう終わり。きりーつ、きょつけーっ、れーっ」

 頭を15度程度傾けて教室を出る。どやどやと流れ出るクラスメートの放課後スケジュールは知らないが、添のスケジュールは真っ白。気ままに過ごそうかなと、久しぶりの余暇に胸踊らせて。
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