タレントアビリティ
『あのねぇ、そーま君探してほしいんだけど』
「だと思いましたよ。昨日万が楽しそうに電話していましたから、絶対何かやらかすかなって」
『むー、そえもなかなかになってきたわね。そうよそうよ、よろず君とね、昨日話したんだけど』
「……ちょい待ち」

 昨日。
 能恵は確か夜中の2時過ぎに帰って来たはずだ。覚えているのは起こされたからであって、起こされたということは例にもよって、ベロンベロンだったわけで。
 酒臭い息で酔ったフリして、眠たい添に甘えて。だから髪を撫でて優しい言葉を投げ掛けて、倫理的に危ない時間を過ごしていた。間違いは起こっていないのが幸いなのだろうか。

 だからつまり、能恵はお酒を飲んでいた。万と。

「あんた万に飲ませたな!」
『んまっ! どーして分かったのかしら。そうよそうよ、よろず君なかなかイケるクチでね。今ファミレスなんだけど、二日酔いでゲロゲロ』
「未成年に酒飲ますな!」
『法律なんざ私の敵じゃなーい!』
「万にとっちゃ敵!」
『……よね。ま、ちびっとしか飲ませてないよ。で、話戻すから。とにかくそーま君を見つけて、見つけたらすぐに電話するの』
「あー、あとひとつ。場所の目星がつかないんですが」
『勘でなんとか。そうやってそえが勘で見つける事が、今回は大事なんじゃないかなーって。まー、頑張ってー』
「あ、ちょっ、そんだけじゃ無茶だっ……。って、切れやがった……」

 ツーッ、ツーッと寂しい電子音でアピールする携帯電話をポケットにしまってため息。歩きながらの電話だったから、気付けばもあ家のすぐ近く。
 断るわけにはいかないだろうか。いや、断れるはずがない。断った所で能恵が諦めるはずはないし、それに添が断ったケースの手もいくつか用意しているのだろう、どうせ。その程度朝メシ前で、二日酔いに苦しくったってやってしまう。

「……しゃーない」

 歩幅を広げ家へと急ぐ。どうせ能恵はいないのだから、さっさと自転車に乗って探しに出よう。自分の勘なんて、当てにならないけれど。
 添としても、走馬を何とかしてやりたい。そういう気持ちが心のどこかにあるのだろう。根拠は無いけど、そんな気がしてならなかった。
< 155 / 235 >

この作品をシェア

pagetop