タレントアビリティ
「とは言ったものの……」

 正直言って見つからない。気ままになすがままにペダルを漕いでいるものの、それなりに広い街からたった1人の中学生を見つけるなんて、なかなかうまくはいかないものだった。
 いくつか候補はあった。ハッピーマートの駐車場、ショッピングモール、いつか出会った公園……。全て回ってどこにもいない。だから今、こうして自宅アパートの前で肩で息をしているわけだ。

「……分かるかぁ!」

 時刻はもう7時。候補地を周り終わった後も適当に何となく動き回っていたものの、当たり前といえば当たり前だが、睦貴走馬を見つける事は出来なかった。
 ぐったりと頭をハンドルに落とし、呼吸が落ち着くのを待つ。落ち着いたからといってだからどうしようかという候補は無い。八方塞がり。そんな表現が的確だった。

「教えてくれたっていいだろうに……。能恵さんは俺を過大評価し過ぎだ……」

 能恵なら中学生1人探し出す事なんて何の造作もないだろう。場所なんてすぐに特定出来るし、その場所へたどり着くための手段だってたくさんある。その人を説得する言葉も技術も、小さな身体にぎっしり詰まっている。
 添が能恵になろうだなんて不可能。それは分かり切っている事なのに、能恵は何故かそれを許さない。あなたには才能があるから。そんな責任ある無責任な言葉を添に突き刺しては笑っている。
 けれどその言葉に、きっと悪意は無い。能恵が認める才能なのだから、ひょっとしたら。

「それは無い、か。俺に才能なんてあるはずないし、能恵さんも分かってるし」

 とにかく今は何とか見つけなければ。しかし両足はパンパンで、残暑の残る夏の夜で、服が汗でベトベト。不快過ぎてどうしようもない。
 シャワーでも浴びてもう一度探しに行こう。マウンテンバイクを停めてアパートの階段を昇る。見慣れない人影が、家の扉の前にあった。
 見た感じ中学生。男子であることも分かって、自分にそんな知り合いって誰かいたかなと記憶を反芻していると。

「……兄ちゃん」
「走馬か」

 やっぱり走馬が、そこにいた。添の家の扉にもたれてただただぼんやり。添を待っていたかのようにすら、思えた。
< 156 / 235 >

この作品をシェア

pagetop