タレントアビリティ
「家知ってたか」
「だって1回来たことあるし」
「だったな、そういや。で? 何か用か?」

 家には上げずに扉の前で走馬と話す。自宅を見せたくない理由はこれといって添には無いのだが能恵にはあるだろう。壊れたちゃぶ台の行方を、添はよく知らない。
 しかしそんなことより、走馬の様子がおかしかった。何かあったに違いないような俯き加減から走馬に起こった出来事を勘で当てる事は、添ですら簡単。

「母親と何かあったか」
「……もう、母親ですらなくなったんだ。いやあ前からそうだったんだけど、あれはさ、腹違いの母さんなんだ。ただ何となくそう思ってたけどね、間違いないって、裏付けちゃった」
「そうだったか……。それって、そりゃ……」
「兄ちゃんは気にしなくたっていーよ。あー、あの白い姉ちゃんのこと? 理由分かったでしょ、どうしようもないって、ボクが言ってた意味をさ」
「能恵さんが知らないって事は、無いと思ったけど」

 完全に予想外の事だったのだろうか。能恵が調査の対象にすらしなかったのか、それとも情報ソースである「ことちゃん」が揉み消したのか、能恵が知りつつあえて触れなかったのか。
 1番最後のものが有力だろう。それも何もかもが能恵の手の中で、今回もまた、彼女の意のままに操られているのだろうか。

「まーね、そうだろうなって思ってたし、自分の出生になんて興味無いしそのうち分かるし、気ままに生きられるわけなら、それはそれでいいのかもしれない。万引きで稼ぐだけじゃ大変だから、マジメにバイトを捜さなきゃね。ねぇ、中学生でも雇ってくれそうなバイト、兄ちゃん知らない?」
「能恵さんが、お前を」
「なんであの姉ちゃんに頼らなきゃいけないのさ。それくらいなら自分でバイトさが……」
「能恵さんがお前を呼んでる。バイト先くらいあの人に掛かればどんな場所でも確保できる。あんなこと言うけど、いい人なんだよ能恵さんは」
「兄ちゃんさぁ」

 吐き捨てるように走馬があざ笑う。もう暗くなってしまった夏の夜、走馬の悲しそうな哀れみの目が、そっと添を射止めた。
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