タレントアビリティ
「どれだけあの人を信じてるの? てか兄ちゃん、あの人の事羨ましくて羨ましくて苦しいんじゃないの? ボクには分かるよ、それくらい」
「……勘だろ」
「勘じゃないさ、勘じゃない。届かないあの人になろうとして、無様にあがいてるんでしょ。そんなのボクだって分かる。兄ちゃん、見苦しい」
「申し訳ないけど、それは俺のセリフなんだな走馬。俺からしてみりゃお前のその、母親に対する態度のほうが許せない。ふざけんなよ、お前」
「は? 母親? さっきも説明したじゃん。あんなの母親じゃ」
「それが許せないって、俺は言ってる。例えお前の母親がお前の本当の母親とかじゃなくたって、お前を愛してないだなんて、そんなのありえないだろうが」
「……兄ちゃんに何が分かるんだよ」
「お前にだって、何も分からんだろうが。母親に面と向かって話した事あるのか?」
「だーもう! うるさいなーっ!!」

 バンッ! と金属の扉を思い切り叩いた走馬が添に詰め寄った。ゆらゆらと揺れるその瞳の奥にどうしようもない感情と寂しさがあるような気が、添にはしてならない。
 能恵に連絡したい。そう思ったけど、出来なかった。

「だいたいあの人にも言ったけどお前は何も関係ないじゃんか! どうしてそんなっ、犯罪者を救ってやろうとか、そんな考えとギゼンでやってこうとするんだよ! そーいうの迷惑だって! 押し付けがましいんだって! ほっといてくれよ!」
「じゃあ何でここに来たんだよ。他人でお前に何の感情もないここに、何で来た」
「それは……!」
「走馬さぁ……。バレバレなんだよ。何とかして欲しいんだろうがよ、俺と能恵さんにさ。だからここに来たんだろ?」
「……かってな、ことっ!」
「じゃ何でお前は今、ここにいるんだよ」

 携帯電話を取り出しながら添は真顔で問い詰める。それに耐え切れなくなった走馬は、ふいっと顔を背けたっきり何も言わなくなった。図星だった。
 やれやれと呆れつつ携帯電話を耳に当てる。お目当ての声がすぐに聞こえて来た。待ってたよと、そう言った。
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