タレントアビリティ
『なるべく早くそっち行くから、逃がさないでね?』
「どのくらいかかります?」
『さーねぇ。ぼちぼち行くから、そうま君煽ってね。こっちには何枚もカードがあるんだから、仕上がりっぷりによってそれからはゆっくり決める。あの子の歪んだ考え方、叩き直してやるわよ』
「……能恵さん」
『うんうん分かってる。俺には無理ー、って言いたいんだよね? でもそれは違うわ、そえ。あなたのやったことがあなたのやれたことだから、そーいうのはきっちり誇りなさい。じゃ、私は行くからねー、じゃーねーっ』
「あ、ちょ、ちがっ……」
最近の電話は一方的に切られるものなのだろうか。添が通話終了ボタンを押した記憶が、本当に無い。
風音の時といい能恵の時といい、本当に電話での会話に弱いなと、つくづく思いつつ振り返る。
走馬がいなかった。
戦慄と緊張が走る。携帯電話が落ちる音が、軽く響いた。
「うわあああああああっ!!」
やってしまった。よりにもよって、やってしまった。やるなと言われた事を、絶対にやるなと言われた事を、よりによって能恵に羨ましがられたその直後に、よりによってやってしまった。
扉の前には誰もいない。誰かいてほしかった。いない。
「まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい!! あいつどこに行った! それより先にあいつが逃げないっつー確信をした俺がバカだ! うわー殺される罵倒されるナニされるーっ!」
とりあえず颯爽と廊下を駆け抜け、ひらりとマウンテンバイクに跨がってペダルを踏み込む。まだそんなに時間は経っていない。だから右に行くか左に行くか。それが全て。
走馬のような勘も能恵のような才能も無い添が、火事場に追い込まれたのなら。
「……右ぃっ!!」
勘だけが頼りだった。
「どのくらいかかります?」
『さーねぇ。ぼちぼち行くから、そうま君煽ってね。こっちには何枚もカードがあるんだから、仕上がりっぷりによってそれからはゆっくり決める。あの子の歪んだ考え方、叩き直してやるわよ』
「……能恵さん」
『うんうん分かってる。俺には無理ー、って言いたいんだよね? でもそれは違うわ、そえ。あなたのやったことがあなたのやれたことだから、そーいうのはきっちり誇りなさい。じゃ、私は行くからねー、じゃーねーっ』
「あ、ちょ、ちがっ……」
最近の電話は一方的に切られるものなのだろうか。添が通話終了ボタンを押した記憶が、本当に無い。
風音の時といい能恵の時といい、本当に電話での会話に弱いなと、つくづく思いつつ振り返る。
走馬がいなかった。
戦慄と緊張が走る。携帯電話が落ちる音が、軽く響いた。
「うわあああああああっ!!」
やってしまった。よりにもよって、やってしまった。やるなと言われた事を、絶対にやるなと言われた事を、よりによって能恵に羨ましがられたその直後に、よりによってやってしまった。
扉の前には誰もいない。誰かいてほしかった。いない。
「まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい!! あいつどこに行った! それより先にあいつが逃げないっつー確信をした俺がバカだ! うわー殺される罵倒されるナニされるーっ!」
とりあえず颯爽と廊下を駆け抜け、ひらりとマウンテンバイクに跨がってペダルを踏み込む。まだそんなに時間は経っていない。だから右に行くか左に行くか。それが全て。
走馬のような勘も能恵のような才能も無い添が、火事場に追い込まれたのなら。
「……右ぃっ!!」
勘だけが頼りだった。