タレントアビリティ
 しばらく漕いだ先。出会ったのは出会いたくて出会いたくない人物。さらりと白い髪を流しながら隣に若い女性を連れて。
 マウンテンバイクをかっ飛ばす添を見つけた能恵は、添を見るなりすぐに跳び上がった。

「このバカぁ!!」

 突撃してくるマウンテンバイクの添の顔面に回し蹴りをぶち込み、吹き飛んで電柱に頭をぶつけた添の襟首を掴む。目が怖い。知られるのが早過ぎた。
 連絡も取っていないのにこの現状を把握した彼女の才能が今は恨めしい。本気で怒っているのだろうか。

「なんで逃げられたのよぉ! せっかくうまくいってたんだから、どーすればーっ!!」
「……すみません」
「そして火事場で勘を外すんじゃない! 右か左かで迷ったなら、今までの経験から判断して、50%以上の確率を選ばなきゃダメでしょうが!! こっちはどう考えてもハズレよ! 今までこっちサイドで見つかってないし、ハッピーマートもショッピングモールも反対側だし!」
「……すみません」

 ぶつけた頭が痛かった。怒鳴られた耳が痛かった。漕いでいた足が痛かった。
 けれど何より、役に立てない自分が痛々しかった。力になれない自分が、嫌で嫌で心が痛い。

「あの、純白さん……」

 荒れ狂う能恵の後ろからちらりと覗いたのは、どこかで見たような事がある女性だった。確かあの事務室だったか、走馬に散々罵られていた、あの女性。
 走馬の母親だった。いや、義母だった。
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