タレントアビリティ
 能恵に叩かれた。女性に年齢を聞くなというニュアンスだということはすぐに悟れた。
 しかし若い、若すぎる。見た目はまだ大学生にしか見えない。能恵とは違った若さがあった。言ったら怒られるだろうけど。

「私、不妊症なんですよ。いまひとつ卵が着床しにくい体質で、そればかりは、夫に申し訳なくて……。治療もしましたけど、やっぱり、ダメでした。けれどどうしても子供が欲しくて、夫とも何度も、その、夜の生活をですね、頑張ったり、したんですけど……。走馬を引き取る半年ほど前に、交通事故で」

 ますます陰りをます楠美の表情は、もうどうしようもないほど暗かった。同じ視界に真っ白な能恵がいるからだろうか。能恵をどかして立ち上がる。細い人だった。

「夫は亡くなりました。私もその事故で、子宮を傷つけてしまって、もう二度と子宝に恵まれない身体になって……。その時、その交通事故で生き残った走馬を引き取ろうと、私は決めました」
「……マジかよ、それ。じゃあ走馬は、まさか」
「そうよ、そえ。そうま君にも両親がいなくて、本当に身寄りはくすみさんだけ。そうま君には母親しかいないって事には気付いてたけど、こんな、かわいそうなことだなんて」

 珍しく能恵が俯く。女性だからこそ感じるシンパシーなのだろうか、こういうものは。子供の事、妊娠や出産の事。添にはその喪失の悲しみが、真の意味では分からない。
 けれど走馬の気持ちなら感じられる気がした。まだ中学生で両親がいなくて、家族だ互いに気を使っているような空間で、だから走馬は、あんな行為をしているのだろうか。

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