タレントアビリティ
「……能恵さん」
「言いたいことは分かってる。謝らなくていいわよ、こうなるとは……」
「走馬の居場所を突き止めて下さい。あなたにはそれが出来るはずだ。俺が走馬を、走馬の母さんに会わせる」
「……添、あなた」
「あいつを楠美さんに会わせるのは俺の役割だ。ここに連れて来て話をさせる。それが今回の、俺の役割」
「あなた、私をアゴで使おうっての? 誰に向かって、そんな高圧的なお願いをしているつもりよ、添」
「能恵さんに」

 能恵の目線をまともに受け止める。明らかに感情が高ぶり始めた彼女相手に、対等な話が出来るとは思えない。どんな主張も切り札も、ジョーカーの中のジョーカーである彼女の前には、全て切り捨てられて終わってしまう。
 けれど伝えなければならない。そのジョーカー相手に微かな抵抗が出来るのは、世界できっと。

「あなたの才能を、俺に貸してほしい。あなたの計画を狂わせた責任を、俺に負わせてほしい」
「あなたごときに、何が出来るというのよ。いい? あなたの役割はもう……」
「あんなに何が出来るってんだよ!」

 世界できっと、添だけだ。
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