タレントアビリティ
「走馬の話もマトモに聞けない! 頭ごなしに自分の価値観押し付けて、あいつの感覚も感情もぐちゃぐちゃにして、あんたにあいつの何が分かる! どんな才能があったって、能恵さんにあいつが理解出来るか!」
「……あなたにも、理解」
「出来る。俺ならあいつを、少なくとも能恵さんよりは、理解してここに連れて来て、楠美さんと話させるくらいは出来る。だから」

 能恵は冷たく見つめるばかり。呼吸をしているのかさえ悟らせない不動のままに、添の激昂を受け止めていた。
 添はぜいぜいと息を荒らげて同じように能恵を熱く見つめる。後悔なんか無い。これは俺の役割だから。

「才能を、貸してほ」
「いいたいことはそれだけか」

 だけどその役割すら、冷たい声に掻き消された。氷のように冷たい彼女のオーラに、添は飲み込まれる。
 能恵をここまで恐怖したのは初めてで、だからここに来て初めて、添は後悔した。

「わたしにいいたいことはそれだけか、むなしろそえ」
「…………ぁ」
「それだけか!!」

 声が出ない。自分より遥かに小柄な能恵が、怖い。飲み込まれる。絡めとられる。


……消される。


「…………そっ、それだけだ! 俺の言いたいことは言った、伝えた! 次は能恵さんが、返す番だろ!」

 なのに添の口から漏れたのは、そんな場違い的外れな言葉だった。荒れ狂う能恵の瞳が、きゅうっと収縮する。
 信じられない。そんな言葉が彼女の口から零れた。
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