タレントアビリティ
「走馬」
「……兄ちゃん、か」

 走馬がいた場所は、いつかの公園だった。あの日と同じように鉄棒に座って脚をぶらつかせながら空を見ている。
 楠美の表情が、ふわりと脳裏に浮かんだ。似ているような似ていないようなそんな面影を、走馬に覚える。

「よく分かったね」
「勘だよ」
「にしてはピッタリだ。実は兄ちゃんにも、勘があるんじゃ」
「どうだろうな。少なくともお前ほどは無いよ」

 マウンテンバイクを止めて走馬の隣の1段低い鉄棒に腰掛ける。身長差があるから2人は並んで見えるけれど、立場は全然並んでいない。鉄棒はざらついていた。
 単刀直入に添は切り出す。先程の能恵の、楠美の顔が、浮かんでは走馬に重なって消えた。

「お前の母さんに会った」
「はぁ!?」
「随分若いよな。中学生の息子を持つには、若すぎると見てたけど、そういう事だったんだな」
「……兄ちゃん、ねぇ、何を知ったんだよ」
「走馬の母さんの主張。主張ってゆーかそりゃ、嘆きみたいなもんだったよ」
「余計な事、喋ったな」
「先に出生に関して言ったのはお前だろ走馬。いちいち誘導尋問だよなお前の言動は。なんか自然とこっちがそうなるように仕向けてるみたいな、まあ、勘が鋭いからなんだろうけど……。とにかく、言いたいことはちゃんと言え、走馬」
「……え?」

 走馬の疑問が添に向けられる。添は走馬を見ずに、ごまかすように携帯電話でメールを1つ見てから、画面から目を離さずに、そのまま続けた。
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