タレントアビリティ
「戸籍が無いんだよ! バイトしようにも住所が無い! 登録されてないんだよ、俺は家族として! だからっ、あんな赤の他人が苦労して、俺を養っていこうだなんて、苦労かけるから……。どうしようもないんだよ、ボクは!」
「……走馬」
「何とかしてよ兄ちゃん! あの白い姉ちゃん凄い人なんでしょ!? 2人分の戸籍くらいちょちょいのちょいで、タダで出来るんじゃないのかよ!!」

 ずんずんと詰め寄って鉄棒に腰掛ける添の足元に迫る。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で、添の脚を殴った。

「何とかしてよ! 母さんに、楽させて、やりたいんだよ!」
「お前、何で俺に言うんだよ……」
「だって兄ちゃん、あの姉ちゃんに唯一」
「そういうのは、お前の母さんに言えよ!」
「戸籍が欲しいとかいう叶わない願いをぶつけたら、ますます苦しめるじゃんかよ!!」
「それでもだよ!」

 鉄棒から降りて走馬の首を掴んで顔を引き寄せる。唾が降り注ぐくらいに、鼓膜が破れるくらいに、本気で添は伝えたい。
 こいつを変えるのが、自分の役目だからだろうか。

「それでもお互いにやっていこうってのが、家族ってもんだろうが! たった1人の母親なんだろ、血が繋がってようが繋がってまいが! わがままくらい、思いっ切り言えよ!」
「でも!」
「それが家族だろうが!!」

 理由も根拠もいらない。
 ただ一緒に住んで、手作りの独特な味付けの料理を食べて、お互いに細かい事に言って、やっぱり信頼出来て。
 苗字が違っても血が繋がってなくても、家族とはきっと、そういうものなのだ。

「走馬!」

 そんな走馬の家族、楠美が公園に走って来たのは、そんな時だった。
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