タレントアビリティ
「お母さんにも両親がいないの。幼い頃の記憶が無くて、物心ついた頃には、孤児院にいた」
「うそ……、だよね」
「父親の腕にぶら下がったり、母親の膝で絵本を読んで貰ったり。時には怒られて泣いて笑って、そんな家族の在り方を、私は知らなかった。孤児院でも、知れなかった。憧れてたのよ、そういう家族に」
「じゃ、じゃあ母さん」
「……私は天涯孤独だった。だから、あなたを拾った引き取った。家族が欲しかったの、走馬」
走馬から楠美から、どちらからとも無く距離が縮まる。楠美の瞳から、涙がころりと落ちた。
「私は家族が欲しかった。温かい家庭で、優しい旦那さんと元気な息子と、ただ幸せに暮らしたかった! でも叶わなくて、だからあなたを引き取って、それをずっと、隠してて……!」
「……ひどいね、母さん」
「ごめんなさい、走馬……! 私は本当の家族じゃなくて、ただの、そんなに深い関係の、無い……」
「そういうことじゃない」
膝を折ってしまった楠美を、走馬は見ながらうっすらと言った。そっと屈み込んで母の瞳を見て、恥ずかしそうにちょっとだけ目線をずらして。
けれどはっきり、走馬は言った。
「母さんは母さんだ。どんなにボクを放任してたって、家族らしい扱いされたりしなくたって、ボクの母さんは、母さんだけなんだから。だから、そんな、辛そうに、しないでよ」
「……そう、ま」
「でもさ……。ボク、いくら勘が強いからっていったって、思い込み激しいから、だからさ、ちゃんと言葉にしてほしいんだよな」
「なら万引きとかやめなさい。お母さんは、あんたをそんな風に育てた覚えはないわ」
「……ごめんなさい」
涙目で無理して母親らしい事を言う楠美に、添は照れ臭そうに言った。2人の距離はほんの少しあるけれど、でも幾分縮まってはいる。
こんな距離感でちょうどいいのかもしれないと、添は背後でぼんやり見ていた。自分は勘は強くないから2人の全ては分からないけれど、ほんの少しだけ感じる達成感が、心地良かった。
「うそ……、だよね」
「父親の腕にぶら下がったり、母親の膝で絵本を読んで貰ったり。時には怒られて泣いて笑って、そんな家族の在り方を、私は知らなかった。孤児院でも、知れなかった。憧れてたのよ、そういう家族に」
「じゃ、じゃあ母さん」
「……私は天涯孤独だった。だから、あなたを拾った引き取った。家族が欲しかったの、走馬」
走馬から楠美から、どちらからとも無く距離が縮まる。楠美の瞳から、涙がころりと落ちた。
「私は家族が欲しかった。温かい家庭で、優しい旦那さんと元気な息子と、ただ幸せに暮らしたかった! でも叶わなくて、だからあなたを引き取って、それをずっと、隠してて……!」
「……ひどいね、母さん」
「ごめんなさい、走馬……! 私は本当の家族じゃなくて、ただの、そんなに深い関係の、無い……」
「そういうことじゃない」
膝を折ってしまった楠美を、走馬は見ながらうっすらと言った。そっと屈み込んで母の瞳を見て、恥ずかしそうにちょっとだけ目線をずらして。
けれどはっきり、走馬は言った。
「母さんは母さんだ。どんなにボクを放任してたって、家族らしい扱いされたりしなくたって、ボクの母さんは、母さんだけなんだから。だから、そんな、辛そうに、しないでよ」
「……そう、ま」
「でもさ……。ボク、いくら勘が強いからっていったって、思い込み激しいから、だからさ、ちゃんと言葉にしてほしいんだよな」
「なら万引きとかやめなさい。お母さんは、あんたをそんな風に育てた覚えはないわ」
「……ごめんなさい」
涙目で無理して母親らしい事を言う楠美に、添は照れ臭そうに言った。2人の距離はほんの少しあるけれど、でも幾分縮まってはいる。
こんな距離感でちょうどいいのかもしれないと、添は背後でぼんやり見ていた。自分は勘は強くないから2人の全ては分からないけれど、ほんの少しだけ感じる達成感が、心地良かった。