タレントアビリティ
「これ」
「……何だよ」
「あげるから。とりあえず必要な書類は揃えたから、楠美さん、走馬と頑張って」
「はあ……。開けますね」
何が何だか分かっていない家族だったが、母がそっと封筒を取り出す。厚紙のような紙質のそれらに書かれた細々とした文字を、走馬がたまたま持っていた懐中電灯で照らす。
2人が息を飲むのが、分かった。
「これ……!」
「あなたたちの戸籍。隣の県になったけど確保したわ」
「え、どうして、そんな……」
「母さん。住所と、この書類って、まさか……」
「ボロアパートだけど使いなさい。あと、求人あってた企業あったから、同封している番号に電話して。走馬、あなたもそこなら働ける。安い給料だけど、雇用は保障出来るわ」
それだけを言い残して公園を立ち去ろうとする能恵。添を呼んでさっさといなくなろうとはしたものの、しかしそれを止めたのは、添だった。
能恵が不思議そうに振り向く。添の隣には、走馬がいた。
「あの、さ」
「……お礼ならいらないわよ。私からの、ちょっとしたお詫び」
「ありがとうございました!! このご恩は、一生、忘れませんから!!」
能恵の言葉を遮って、頭を120度下げて叫ぶ走馬。その隣では楠美が、同じように深々と、頭を下げていた。
能恵は何も言わない。添はそれを黙って見ている。添が深刻だと気付いた事なんて、能恵にとっては今更の事なのだろう。
「仲良くね、そうま、楠美さん」
ぼそりと呟いて走って逃げる能恵。添は彼女を追い掛けようとして、けれどどこか後ろが髪引かれるような雰囲気を覚えて、同じようにぽつりと呟いた。
けれどその呟きは、この家族に伝えたかった。
「家族は、大事にな」
停めていたマウンテンバイクを押して出ていく。もう一度振り返る事はしなかったし、する必要は、なかった。
「……何だよ」
「あげるから。とりあえず必要な書類は揃えたから、楠美さん、走馬と頑張って」
「はあ……。開けますね」
何が何だか分かっていない家族だったが、母がそっと封筒を取り出す。厚紙のような紙質のそれらに書かれた細々とした文字を、走馬がたまたま持っていた懐中電灯で照らす。
2人が息を飲むのが、分かった。
「これ……!」
「あなたたちの戸籍。隣の県になったけど確保したわ」
「え、どうして、そんな……」
「母さん。住所と、この書類って、まさか……」
「ボロアパートだけど使いなさい。あと、求人あってた企業あったから、同封している番号に電話して。走馬、あなたもそこなら働ける。安い給料だけど、雇用は保障出来るわ」
それだけを言い残して公園を立ち去ろうとする能恵。添を呼んでさっさといなくなろうとはしたものの、しかしそれを止めたのは、添だった。
能恵が不思議そうに振り向く。添の隣には、走馬がいた。
「あの、さ」
「……お礼ならいらないわよ。私からの、ちょっとしたお詫び」
「ありがとうございました!! このご恩は、一生、忘れませんから!!」
能恵の言葉を遮って、頭を120度下げて叫ぶ走馬。その隣では楠美が、同じように深々と、頭を下げていた。
能恵は何も言わない。添はそれを黙って見ている。添が深刻だと気付いた事なんて、能恵にとっては今更の事なのだろう。
「仲良くね、そうま、楠美さん」
ぼそりと呟いて走って逃げる能恵。添は彼女を追い掛けようとして、けれどどこか後ろが髪引かれるような雰囲気を覚えて、同じようにぽつりと呟いた。
けれどその呟きは、この家族に伝えたかった。
「家族は、大事にな」
停めていたマウンテンバイクを押して出ていく。もう一度振り返る事はしなかったし、する必要は、なかった。