タレントアビリティ
 眠たい目をこすりながら登校した翌日、突然背中を蹴り飛ばされた。
 強烈な蹴りが背中に刺さる。一瞬呼吸を忘れて、ふわりと身体が軽くなったかと思うと校庭の地面が一気に視界を覆い尽くして、ああ意外と地面って柔らかいのかもなとか思った時に。
 地面に突っ伏した瞬間、背中を踏まれた。最悪の2連コンボだった。

「むーなしろーっ。ご機嫌うるわしゅーっ?」
「ったぁ……」
「麗しくないか。だよな。で? あのガキの件は?」
「まずはその足を離せ、万」

 足を無理矢理どかしながら添は立ち上がる。泥まみれになった制服を叩きながら万を見て、とりあえずみぞおちを蹴った。
 かなりの痛みに苦しがる万。そんな万を見下して頭を叩いて、投げ出された鞄を拾いながら頷いた。

「能恵さんにさせてうまくいかない事は無いよ」
「……そりゃそっか」
「戸籍も仕事も家確保して県外に追い出してたけどね。能恵さん、走馬とはうまくやれる見込みは無かったし」
「確かに散々に罵ってた。ってか能恵さんって酒弱い?」
「やっぱ飲んでたなお前……」
「あ、聞いたか。あの人簡単に朱くなって呂律が回らなくなって、なんかかわいい小動物って感じで、理性保つの大変だったぜーってそんな目で睨むなよ!」

 どんな形相だったのか気になった。万の怯えが尋常では無かったので、そりゃまあ凄い睨みだったのかもしれない。
 気を取り直して昇降口へ向かう。先を行く万が振り返りながら、意味深な笑みでいきなり言った。
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