タレントアビリティ
「家族問題だったのか、あいつは」
「まあ、な」
「解決したのは能恵さんだろうよ。でも、解決させたのはお前だったりしてな、空白」
「それは無いだろ」
「いーや、ある。俺はお前がそーいう、家族とか友情とか、そんな人の情けに弱いってのを知ってんだよな。ごまかしはさせねーぜー?」

 ニタニタと笑いながら先を行く万の隣に、添は立ちたくなかった。理由は分からない。
 ただ万の指摘の半分が正解で半分が間違いで、どちらが正解でどちらが間違いなのかは分からないけれど。とにかく万の隣が、嫌だった。

「……空白?」
「あ、いや、なんでもない」
「実際お前が深く関わってたりしたんだろ? それならお前の手柄でもあるさ。今回の俺はアイデアスポンサーだ。報酬はあの店にもっかい連れてけ、って能恵さんにでも伝えといて」
「お前はただ酔い潰されただけだろ」
「そうかもな。ところでマジに、能恵さんはあのガキの事嫌いっぽいよな」
「確かな根拠の裏付けも無く勘で物事を切り詰める姿勢」

 それが嫌いで羨ましいと、あのあと能恵が言っていた。
 自分には才能がありすぎて、だから何から何まで正確に根拠を回収して進んでいく。それが自分のスタンスだから。それだけを言い残して、能恵は今も寝ている。

「あの人の考えは、あの人にしか分からないさ」
「俺の考えにも俺にしか分からない。だろ? 空白」
「確かにな」
「だから仮に心を読めるような人がいるとしたら、それはそれで大変だろうぜ。他人を知らないから人間楽々生きてける。勘も大変だな」

 やれやれと言いながら教室に入る。やたらと張り詰めた空気で、添と万を受け入れてくれた。一体何事だろうか。
 全員が耳を塞いでテキストにぶつぶつ。目が血走っている。正直言って怖い状態。
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