タレントアビリティ
「本題に入ろうか。あっちゃんとそえ君に頼みがあって、今日はわざわざ来ていただいた。遠い所を済まなかったよ。八ツ橋をお土産に用意してあるから、よければ持って行ってほしいな」
「味は?」
「いちごミルク」

 要は赤が好きだった。彼女のグラスの中には真っ赤なカシスジュース。赤が好きなようだ。

「そえ君、君は世界明洲という作家を知っているかい?」
「……知ってるも何も、有名人じゃないですか」

 世界 明洲。せかい あけす。
 赤羽出版のありとあらゆる雑誌に連載を持つマルチな作家の名前だった。作風はバラバラで連載頻度もバラバラという、実在すら疑われている作家だった。
 小説、漫画、イラスト、油絵、アニメ脚本、彫刻などなど、とにかく幅が広いクリエイター。本業は小説家だとはいうものの、連載頻度がバラバラなのはここまで広い仕事を兼ねているからであろう。
 性別も年齢も存在も不明。赤羽出版でも顔を知る人は少ないと、噂になっている作家だった。

「彼に会ってほしい」
「……え?」
「明洲君に会ってほしいと言っているんだ。あっちゃんと2人で、彼を訪れていただきたい」
「いいんですか!」
「ただし」

 発奮する添を撃ち抜く視線を刺して要は繋げる。どこからか白い紙と鉛筆を取り出して、不機嫌そうな表情で言った。
 隣の能恵がやたらニヤニヤしているのが気掛かりだったが、今は要から紙と鉛筆を受け取った。
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