タレントアビリティ
 ひらひらと無責任に手を振って出ていく要と能恵を、そえはただ見ている事しか出来ない。
 こういうことだったのかと、添は社長室でうなだれた。全く無茶苦茶な無理難題で、何より添が嫌うジャンル。自分を書きましょう。昔から大嫌いだった。

「あの紅白コンビめ……」

 要は能恵以上に変人で、なるほど確かに能恵が狂ってると言うほどはあった。間違いないサディスト。人を踏むのが好きそうだ。
 そして彼女がこの、赤羽出版のトップ。ウインドノベルの連載陣の作品がなぜ奇抜な物が多いのか、今分かった。あの人の下には変人しか集まらない。
 そして世界明洲。彼もまた要が言う変人との話だ。今目の前にある紙と鉛筆は、彼と会話が成立するかどうかのものでもあるらしい。

 大変な所に来た。添は今やっとここで後悔した。

「……自分自身、か」

 能恵、風音、万、走馬、要。添の周りにはギトギトな個性で溢れている。強烈で奇天烈な個性に、添は埋もれてしまいそう。
 能恵に振り回され、風音に翻弄され、万に手玉に取られ、走馬に怒鳴られ、要に踏まれ。全くもって個性が無く才能も無い自分を、どうやって紙にぶつけようというのだろうか。
 くるくると軽い鉛筆を回す。何も浮かばない間にも時間だけはますます経つばかり。何も無い自分を紙にぶつけようだなんて不可能にもほどがある。

「あの人赤い物好きだな……」

 鉛筆も赤かった。紙は白かった。強烈な個性が、そこにはあった。
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