タレントアビリティ
「そういう捉え方か、君は」
「そう捉えますよ。他に何を書けと」
「……今まで僕は、こうして初対面の人相手に同じような事を繰り返している。制限時間は全て10分で、この部屋に1人残して、それから僕と相手で話して、鑑定していたが……。こういうケースは、初めてだよ」

 残されていたカシスジュースを飲み干して、グラスを額に当てる。ふう、と小さな溜め息を漏らした。
 そして手渡された白い紙と折られた鉛筆を机の端に置いて、それからいきなり立ち上がり、添の背後にふらりと立った。

「あの、何か」
「前だけ見てな」
「……取って食うつもりじゃ」

 そう言いかけた途端に女性的な香りが増した。呼吸を右の首元で感じ、ふわりと抱きしめられている事が分かった。
 そういえばこの人は女性だ。会話していて忘れていたけれど、そういえば能恵よりもよっぽど女らしい。
 指が触手のように喉元を舐める。ぞくぞくとする何かが背を這って、自然と呼吸が止まった。

「君は面白いな」
「はい?」
「そういう独自の観念を持つ人はなかなかいないよ。それをこの僕の前に怖じける事なく、あっさりと言ってのけるなんて、そうそうはいないからな」
「そう、ですか……」
「このまま君を喰うのもいいな。あっちゃんには勿体ないかもしれない。ここで僕のものにしておいたほうが、赤羽のためになる。いい画家になれそうだ、いや、作家かな。逸材だよ、フフッ」
「すみません、離れていただいていいですかね……。能恵さんに怒られますから……」
「あっちゃんをそれだけ考えてくれているんだね。それは僕としても嬉しいよ。彼女は何よりの恩人だ。赤羽出版をここまでしてくれたのは、あっちゃんの支えがあったからだろうから。だけど僕は、君が欲しいよ。なあに、僕も女だし、君より年上だ。やり方なら任せておけば……」
「いい加減にしなさいよっ!」
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