タレントアビリティ
「かーなちゃん」
「君は相変わらずひどいな。冗談も何も分からないのかい?」
「冗談にしても程があるわよー。2日目の痛みを堪えての仕事の辛さを、私が知らないって?」
「……分かったから顔を踏まないで欲しいな。あとソファをどけてくれないかい?」
「どーしよっかなー。かなちゃんの頼みだもんなー。あー、そーいえばそえはどーなったの?」

 ぐりぐりと顔を踏みながら笑顔で尋ねる能恵。ここまで親密なスキンシップはなかなか無いなと、要を羨ましく思った自分が不思議だった。
 ソファをどけながら立ち上がり肩を回す要。不機嫌そうだけどどこかご機嫌そうでもある表情でそして続けた。

「なかなか面白いよ彼は。いいだろう。世界明洲に会わせようじゃあないか」
「ホントですか!?」
「ああ、構わない。そういう発想が出来る君ならば世界明洲も心を許すだろうね。ただまあ僕も彼には手を焼いていてだな、だから今日はあっちゃんを呼んだんだ。正直、そえ君には期待をしていなかったけれど、言い改めよう」
「いちいち言葉がトゲトゲだよねーかなちゃんは」
「余計なお世話だよ」

 そのままついっと能恵の元に歩み寄り、要は能恵の白い顎に指を這わせた。やや離れた場所で見ていた添は、それを止める事すら出来ない。

「でもやはり僕は、君が欲しいな」
「ニャハッ、お断りよかなちゃん。私の才能は文学だけではもったいないからねー」
「そうかい。また口説くとしよう。もちろん君も狙うからね、そえ君」
「あ、はあ、はい……」

 ミステリアスな雰囲気を漂わせて要が微笑んだ。能恵の顎から指を離して、彼女の背中を押して添の隣に立たせる。
 それから大きなテーブルの引き出しから1枚の封筒を取り出し、能恵に渡した。赤い封筒に黒い文字で「株式会社赤羽出版・推薦証」と書かれている。社長だからこそのものだろうか。
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